知人から突然の電話。久しぶりに何事かと思ったら、マンションを買わないかという話でした。
突然の電話だと思ったらその話?とはいえ、私もそろそろ定年なので、家賃の負担を考えれば賃貸を出てどこかに落ち着いた方が良いのだろうと思っていた矢先でした。家を買った途端に地方に転勤になるというジンクスを再現する同僚たちを見てきましたが、そんなことはもうなさそうですしね。亡父が定年を迎える前に郊外に一戸建てを購入しており、そこならばおそらく相続時に私が住むと言っても兄弟は納得してくれるでしょうから、最悪、その古い家を建て替えて住むという選択肢はあるなと思っていました。都心からは距離があり、周辺には空き家が目立ち始め、車がないと不便な地域ではありましたが。
ということで、一応、住宅展示場に行って期間や資金について勉強もしており、建てるならこのメーカー、あるいはここ、というところまで決めていました。長年、郵便ポストに投げ込まれるマンションのチラシや物件サイトを眺めてきましたが、最近の高騰ぶりにマンション購入はほぼ諦めていました。
しかしせっかくいただいた話。とりあえず現地に行って確認し、結果、そのマンションを買うことになりました。実家との比較検討ポイントは、ざっくりと
・ 機能面
・ 金銭面
・ 感情面
の3つです。
電話の後、早速現地を視察。駅からは徒歩約10分と少々距離があり、徒歩5分以内賃貸物件に住んできた私にはちょっと遠いなぁと感じましたが、周辺はほとんどが戸建て、そこにアパート、ハイツなどが立ち並ぶ閑静な住宅街で、住環境としては悪くありません。駅にたどり着きさえすれば、電車に乗って数分で複数路線のターミナル駅に到着します。自転車でもアプローチ可能の距離です。駅の周りには小規模店が立ち並ぶ商店街があり、落ち着いています。駅まで行かずとも物件の近くにも大手スーパー、コンビニ、病院、クリニックなどがあり、生活自体は便利そう。
物件に到着。建設当時はおそらくおしゃれなマンションだったんだろうなぁ、でも今はすっかりお年寄りですね、という外観でした。しかし、シニアスポーツの大会で入賞しそうな堅牢さも感じました。エレベーターあり。これからもっと年をとっていく私にはエレベーターの有無は重要なポイントです。建物入り口のガラスドアを開けて中に入ると、玄関周りや廊下などは綺麗に清掃されていて管理状態は悪くなさそうです。部屋に着くと、後から2つ目の鍵をつけたと思しき玄関ドア。部屋の玄関の横の金属の扉付きニッチが謎(後に牛乳配達用と気づきました)。オートロックがないので、2重ロックはあったほうが安心ですね。カメラ付きインターホンもちゃんとついています。これまで住んできた賃貸マンションはオートロックがついていましたが、実家の面倒を見るようになってからというもの、本当に必要なんだっけ?と思うようになったのでそれも私としてはOK。そもそも治安の良いエリアです。
40平米ほどの1DKの部屋に入ると更に古さを感じました。手前には水回り、ドアの向こうにはDKと、その向こうには寝室のある間取りですですが、リフォームを繰り返したらしく不思議な感じになっていました。たとえば玄関とDKとの間に後付けされたと思しきドアがあるのですが、収納の扉と直角に面しており、収納の片側の引き戸はドアのこちら側、もう片側の引き戸はドアの向こう側からでないと開け閉めできません。DKの梁の下に小さなライトがついているのは、収納を外したが故と後からわかりました。昔は和室だったんだろうなぁという奥の寝室とDKとの境は壁と収納に遮られて半間ほどしか空いておらず、DK側のエアコンの風が奥の部屋まで届かない状況でした。50年前、エアコンはまだそんなに一般的ではなかったですもんね。各部屋に扇風機か炬燵か電気ストーブ、みたいな時代でした。
しかし、窓からの景色には抜けがありました。この付近は第一種低層地域なので10メートル以下の建物しか建てられないはずなのですが、おそらくこのマンションは規制ができる前に建設されたのでしょう。だから周囲の建物より高いのです。中規模の建物ではありますが、上層階の眺望はとても良いとわかりました。ベランダに出てみると、水栓が。どうやら昔は外に洗濯機を設置していたようです。小さな蛍光灯もついていました。金属の手すりはかなり錆が目立っていましたがしっかりしていました。最近よく見かけるパネルタイプではありません。
古いものの、「機能」の面では、徒歩や自転車で用事が済むこのマンションは実家よりも便利です。実家の面倒を見に行くようになって気づいたのは、庭の手入れが大変なのだということ。父がよく庭に出ていたのは、雑草と戦っていたからか、と今は分かります。が、マンションならばそんな心配もしなくてOKです。眺望に抜けがあり、部屋の向きも良い。最新設備つきのマンションではないにしても、基本的な部分はきちんとしているように見え、中を新しくすれば住みやすい部屋になるだろうと考えました。何より地盤がいい。大きな地震があっても揺れにくい地域です。
次に「金銭」の面です。私は独り暮らしで子供もいないので、資産として残す必要はありません。築50年、ということは、もしかすると20年後には建て替えになるかもしれません。だとしても、もしかしたらその頃には自分の身の振り方も考えた方が良いかもしれません。長く独り暮らしをしてきたので自分のことは自分でしてきましたし、仕事一筋で頭も使ってきました。でもそろそろ体力的に危ない、誰かに面倒を見てもらえる環境の方が良いと判断すれば、権利を売却して施設に入ることも検討しようと思いました。地盤の良い地域ではありますが、もし大地震でも来て住めない状態になったとしても、建て替え時期が多少早まったと考えればよいかと考えました。もともと実家建て替えの場合はリバースモーゲージを検討していましたが、この小さなマンションならばリノベーション費用を含めても、20年ほどの家賃程度で収まります。自分の所有物になる上、ローンも抱えずに済みます。
最後に「感情」の面です。もともと東京育ちのせいか、独り暮らしを始めても高級住宅街として知名度の高いエリアに住もうなどと思ったことはなく、ずっと、”便利ではあるものの知名度低めの最寄駅近マンション”に住んできました。そういう物件は少し家賃も安いので。このマンションの最寄駅も知名度は低く、この近くに住むのだ!と長年計画を立てて積極的に住もうなどと思う人はたぶんいない場所だと思います。でも、私にとってはティーンエイジャーの頃に住んでいた家の近くで、何かと縁のある場所でした。近所に親戚も住んでいて、その家に遊びに来るたびに、この辺は住みやすそうだなぁとも思っていました。親の事情や私の転勤などで転居を繰り返してきた私にとって最も落ち着ける場所でもありました。古いことはすなわち、近くに住んでいたあの頃からここにあったマンションだということでもあり、私にはむしろ懐かしさにつながります。マンションの住人の皆さんの纏う雰囲気も親近感を覚えるものでした。来るだけで落ち着くそんな場所だった、という感情的な理由が最大の決め手になったように思います。
私より少し年下、昭和生まれのマンションに住むことに決めたのでした。一緒にカラオケに行ってもなんとか通じ合えるかな、という歳の差の相棒です。